ファッションとジェンダー

「ジェンダー」という単語を聞く機会が増えました。生物学的な性別に対して、社会的・文化的な文脈での性別を意味する言葉です。ジェンダーに基づく偏見や不平等などの問題に対する意識も近年高まっています。

ファッション・アパレルもこのことと無関係ではありません。これまで製造・卸・小売の各段階で当たり前のように存在していた「メンズ」「レディース」、あるいは「ボーイズ」「ガールズ」といった性別による区分が今後変わっていく可能性があります。

ジェンダーフルイドとは

ジェンダーに関する比較的新しい概念として「ジェンダーフルイド」があります。2015年頃から出てきたトレンドで、日本語では「性的流動性」と約されます。人のふるまいはそのときどきによって「男性らしく」「女性らしく」「どちらでもなく」とさまざまに変わりうる、という考え方です。

アパレルの世界を見てみると、女性がその日の気分によってパンツ(ズボン・スラックス)を履いたりスカートを履いたりすることはごく普通のこととなっていますが、男性がスカートを選ぶことはまだ一般的とは言えません。

2017年のイギリスで、「ボックスプリーツの反乱」と呼ばれるできごとがありました。酷暑の中、半ズボン着用禁止の校則に抗議して男子生徒数十人がボックスプリーツのスカートを着用して登校した、というものです。これを受け、翌年のメンズウェアで多くのデザイナーがメンズスカートを発表しました。これは、女性だけでなく全てのジェンダーでスカートは享受されるべきという考え方を示しています。

海外だけでなく日本でも同じ頃、千葉県の中学が男女ともにスラックスとスカート・ネクタイとリボンから自由に選べる制服を採用し話題になりました。セクシャルマイノリティへの配慮として行われたものですが、人々の意識の変化を表すできごとのひとつともいえます。

一般向けのアパレル店やあの取扱品としてメンズのスカートやワンピースは今のところまだほとんど見られませんが、ブランドのコレクションではいくつかの事例が出てきています。

新しい時代の価値観の変化

こうした流れを受けて、アパレルの分野で従来当たり前だったメンズ・レディースという区分が今後変わっていく可能性があります。例えば、「メンズ」というカテゴリが意味するのが「男性用の服」ではなく「男性の体型に合う服」となり、そのなかには男性的なデザインのものもあれば女性的なデザインのものもある、というような形が考えられます。

実際に、メンズ・レディースそれぞれで同じデザインを展開し、ジェンダーに関わらず好きなデザインを選べるような形を取るブランドも登場してきています。男性も気分によって今日はスカート、今日はスラックスというように自由に楽しむ時代が近づいているのかもしれません。

ベビー服のジャンルにも変化が起きています。歌手のセリーヌ・ディオンがプロデュースするベビー服・子供服は、アルファベットや星・音符などのモチーフを黒・グレー・ベージュ・イエローなどの色で表現した、男女問わず着られるジェンダー・ニュートラルなデザインになっています。本人の意思がはっきりしないうちから女の子だからピンクの服・男の子だからブルーの服を着せてよいのだろうかと悩む親も少なからず現れており、こうした層に対してひとつの答えとなりうるのではないでしょうか。

今あるアパレル卸や小売の形が一気に変わるとは想像しにくいですが、ジェンダー意識の高まりを受けた変化が一般消費者向けのアパレルでも今後少しずつ広がっていくことが予想されます。

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